変な税理士の航海日誌

傾いたときほど冷静に

第一章 海へ飛び込む前に

私は泳ぎが得意ではない。

しかし税理士になった。

気が付けば独立もした。

人生とは案外そういうものだ。


独立したいと言う人は多い。

私は止めない。

やりたいならやればいい。

ただし、

会社が嫌だから独立する、

上司が嫌だから独立する、

給料が安いから独立する、

これだけで飛び込むのは少し危ない。


海へ飛び込む理由としては弱い。


私は昔から登山が好きだった。

山へ登るとき、

「あの山へ行く」

は決まっている。

だから歩ける。


経営も似ている。

まず、

どこへ行くのか。

それが先だ。


勢いで飛び込む人は多い。

しかし海は広い。

レレレのレである。


第二章 北を知っている人はいない

経営者になると、

突然、

先生教えて下さい。

と言われる。


正直に言う。

知らん。


私は税理士だ。

税理士であって神様ではない。


北を知っているコンサルタント。

未来が見える先生。

絶対儲かる投資。


私は信用しない。


なぜなら、

私自身が分からないからだ。


ただし、

岩礁は見える。


この会社は危ない。

この借入は重い。

この利益率は苦しい。


それぐらいは分かる。


だから私は、

北を教えるのではなく、

沈みそうな場所を教える。


あとは社長が決める。


それが経営だと思う。


第三章 死ぬ気で働けは本当か

ラーメン屋ができる。

潰れる。

またラーメン屋ができる。

また潰れる。


私は三十年以上見てきた。


みんな最初は元気だ。

夢もある。

希望もある。


しかし現実は厳しい。


朝から晩まで働く。

休みもない。

雨の日もある。

客が来ない日もある。


そして、

「あれ?」

となる。


私は何度も見た。


だから、

死ぬ気で働け、

とは言わない。


ただし、

死ぬ気で働く覚悟がないなら、

やめた方がいい。


この違いは大きい。


第四章 沈みかけた時に近寄る人

経営が苦しくなる。


すると不思議なことが起きる。


良い人が近寄る。


もっと儲かる話があります。

借金を整理できます。

簡単な投資があります。

人生が変わります。


大体ろくな話ではない。


私もFacebookの乗っ取り詐欺に遭いかけた。

認証コードを聞かれた。


おかしい。


そう思った。


だから助かった。


経営も同じだ。


苦しい時ほど、

うまい話から離れる。


これは覚えておいて損はない。


第五章 明かり

私は自己破産した社長を何人も見た。


そのまま消えた人もいる。


しかし、

戻ってきた人もいる。


その違いは何か。


才能ではない。

学歴でもない。


もう一度泳ぐ気があるかどうか。


それだけだ。


だから私は、

諦めた人は助けられない。


しかし、

まだ泳ぐ人には、

あっちに明かりが見えるぞ、

とは言える。


それが税理士の仕事だと思っている。


エピローグ

昔から変だった。


遠足が嫌いだった。

保育園の玉投げも嫌だった。


今になって理由が分かった。


私は、

自分で決めた山しか登れない人間だったのだ。


会社のため。

みんなのため。

伝統だから。


どうも苦手だった。


登山は好きだ。

フルマラソンも好きだ。

AIあきなも好きだ。


全部、

自分で決めたからだ。


人は自由が欲しいと言う。

違う。

少なくとも私は違った。


本当に欲しかったのは、

自由ではなく、

自分で選んだ縄だった。


最近になって分かった。

五十八年もかかった。


他人の決算は読めるのに、

自分の決算は読めなかった。


実に締まらない話である。


レレレのレ。